竜とそばかすの姫

守りたいと願う心。



 正直前々作の「バケモノの子」、前作の「未来のミライ」で、細田監督がターゲットとしているユーザー層や、取り組んでいきたいテーマの方向性が、自分とは、自分が望むそれとはもう違うのだな、と感じてしまい今回でラストかな、と思いつつ、いつも通り前情報なしで観てきました。得ていたのは別の映画で流れていた予告のみ。ファンタジー性が強い作品なのかな、程度の先入観でした。

 実際にはある意味サマーウォーズを進化させたような世界でありつつ、「美女と野獣」のようなテイストが組み込まれており、根底は「ネット社会の在り方」「生きる意味の見出し方」そして「本能の優しさ」を感じる作品でした。


 すずちゃんのお母さんが、なぜ見ず知らずの子を、命を賭して助けようと行動したのか。

 幼い頃のすずちゃんはそのことに答えを得ることはありませんでした。もちろんお母さんは初めから命を賭けていたわけじゃない。結果的に最愛の家族を遺して逝ってしまわれただけではあった。けれどすずちゃんとしては、自分を押しのけてまで、掴んだ手を振り解いてまで、向かっていってしまったことに、理解ができていませんでした。

 そのことで彼女は、お母さんと紡いで作り上げ、望まれ喜ばれ、自身も楽しいと感じていた「歌」を失った。
 けれど彼女は地球規模で構築された仮想現実世界「U」と出会い、生き方そのものが変わっていきました。
 彼女の歌声はまさに圧倒的であり、本当に惹かれる楽曲だったことが、この作品が辿り着くべき到達点を、相当押し上げたのではないかと感じました。(もしかしたら彼女の歌声が先だったのかのかな) 映像美の演出は正直、そこまで惹かれるレベルではなかったです。それはさすがにここまでどんな作品を見てきたか、或いは最初にインパクトを受けた作品があったかで、確実に人それぞれ異なるとは思います。(自分にとってはもう一生、シャロン・アップルのインパクトを超える出会いはないと思いますw)


 彼女はそこでディーヴァとなり、多くの人々を魅入ることになっていったのだけれど、起きている現象と、起こそうとしている動機の「規模のギャップ」が、やや現実味を損なう流れには感じました。ベルの歌唱能力以外のそのすべては、悪友?のヒロちゃん一人の手で作り上げられていたように見えてしまったので。


 その後彼女のライブ中、突如と現れた竜の存在が、彼女を変えていき、物語が始まっていきました。

 ベルにはその竜が、皆が抱いているイメージのそれとは違って見えていました。実際、彼女は彼の心の一旦に触れることで、間違いではなかったことを知ることができた。そして彼を助けたいという気持ちが芽生えていた。


 自分にできること、自分と話せる人。自分が手を差しのべられる人。自分が助けようと思い助けられるかもと思う人。自分が守りたいと思う人。それらの範囲は相当に少ない。ある種それは「自分の目に映る人」と同じ。そして見えたからといって自分の手は2本しかない。それくらいに小さく、非力。
 でもその非力な力であっても「自分の目に入る人」なら、手を差しのべられるのなら、せめてその機会が自分に与えられたのなら、その機会は是が非でも失うわけにはいかない。それが彼女の母親が本能で感じていた思いであり、ベルが、すずちゃんが竜に感じた思い。


 彼女は彼に信じてもらうため、自ら自身をネットへさらし、そして彼の信頼を得ることができました。彼女は自分にしかっできないと感じたから、彼女は動き、彼女の周りの人たちも助けになってくれて、無事彼らを救うことができ、また、彼女の歌声を愛してくれていた世界中の人たちも助けになってくれていたことが、最も心揺さぶれる場面でした。



 テーマは非常に重いものと思いました。個を維持する。自分というものを維持する。どうしたいかを模索し、どうしていくかを考える。その生き方そのものは実情、仮想世界「インターネット」上と、現実世界上で、区分けする必要性は徐々になくなってきている。どちらの世界で生きているのは、どちらも変わらない人間なのだから。
 なら、どちらの世界で起きること、生まれるものは平等に扱われるべきである。

 ただ、どちらの世界も同じ摂理である必要はない。

 だから「U」の世界に、実質の法的な機関は設けられていなかったんじゃないかな。そもそも同じである必要性がない。ある種それは現実世界があるから、仮想世界はこうあるべき、という考えであり、現実世界の不自由さを、仮想世界だけでは自由にしたい。その願いで作られているように見えました。秩序は必要かもしれないけれど、制約と制限は必ずしも同じである必要はない。それはつまり、今の現実世界においても、今の制約と制限が少しずつ変わってきていることが、それを証明しているようにも思います。なんの根拠もないけど(苦笑)
 制限することで失われているものの大きさが、あまりにも大きいのだと、少しずつ世界が気づいてきている。そんなことを感じました。


 物語としてはぎりぎりお話に綻びがでないでレベルで、それでも少し欠落しているような、と思える部分は多かったです。映画だとどうしても、ということなので、別段この映画だけが、ってわけじゃないところ。でもそこももしかすると意味はあったのかな。

 結構最初からの違和感は「あのアズの正体は誰なんだ?」という展開。なぜリアルを知りたいと感じる、知りたいと思う風潮になるのだろう、というところ。正直それを知ったところで何が得られるのだろう。「あーあの有名人の方だったんだ」「普通の女子高生だったんだ」と、わかったところで何かそれ以上の情報ってあるんだろか、と。竜の場合は、Uの世界から排除すべきだ、っていうのは理解できたので、正体をさらすことで、アカウント凍結ではなく、現実世界での法的手段を行使ができるように、なのかな、とは思ったけど。ベルが誰なんだ、って疑問、マスコミ以外に、そんなに多くの人が気になるものなのかなぁと。
 あとはベルの歌がどう素晴らしかったのか。感動の言語化は極めて難しいとは思うのだけれど、描くのであれば何かもう少しあってもよかったのかなぁ、と感じました。
 もひとつは竜がなぜあんな暴走?していたのか。抑圧された〜 とは分析されてたけど。自身が制御できてなかったのかな。そもそもなぜ「U」の世界に来たのか。説明されていたかもしれないんだけど、ちょっと理解できてないまま観終わってしまいました。
 けどこれらは作品全体からすると些細な点だったので、全体的には物語として成り立っていたし、すずちゃんが勇気を出して歌を届けたシーン、周りのみんなが励まして一緒に歌ってくれていたシーンは相当に感動的でした。彼女が成そうとしていることは、彼女の母親が遂げていたこと。それが彼女の涙になっていたんじゃないかな。応援上映がもしあったら(あの場面だけw)より震えたかもしれない(笑)


 テーマのある作品はやはり魅力を感じてしまいます。ああ、これは考えるべきことなんだと、気付かされること。「今」からの変わりない延長が、必ずしもそのまま「未来」にはならないのだということ。時にはそれらをすべて超越した、人の心、想いが、他人を、世界を変える可能性があるのだということを知ることができました。

 観ることができて大変よかった作品でした。細田監督作品、次作も楽しみです。


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